15,高齢期の不眠と睡眠薬
 当院に来院される患者さまの中には「眠れない」と訴える方がたくさんおられます.人類にとって不眠とは昔からの悩みでした.夜眠れないときに眠れるようにする工夫がたくさんあります.天井の節穴や羊の数を数える,寝る前に牛乳やお酒(英語ではナイト・キャップと言います)を飲む,「眠れない夜のために」という本もありました.とくに年をとってきますと,若い頃のように簡単に寝つけなかったり,寝ついても夜中に目が醒めたりすることがよくおこってきます.
 高齢になると若いときほどの睡眠時間は必要ありません.眠れないからといって,あまりあせらないほうがいいようです.「眠らなければ」とあせると,かえって眠れなくなるものです.また,肌がかゆくて眠れなかったり,トイレに何回も行きたくて眠れないこともあります.これらの症状を治療することによって,眠れるようになることもあります.
 しかしこれらの工夫をしてもよく眠れない場合にはどうしたらよいでしょうか?私はこのような患者さまには睡眠剤を処方しています.睡眠剤というとほとんどの方が「癖になってしまうのでは?」とか「副作用が出てぼけてしまうのでは?」と心配されます.
 確かに戦前から昭和30年台まで主に使用されていた睡眠剤は,バルビタール系といわれる種類のもので,飲んでいるとだんだん効き目が弱くなり,量が増えたり,その薬に対して依存をおこすことが多くありました.また多量に飲むと死につながることもあり,危険でした.「高校生がハイミナール(当時のバルビタール系睡眠剤の商品名)をのんで桃色遊戯」などの記事が昭和30年台にはよく新聞に載っていたそうです.
 これにたいして現在の睡眠剤はこのような欠点が改善されたベンゾジアゼピン系という薬剤が主流となっています.しかし,とくに高齢者に使用すると効きすぎて,次の日に起きれなかったり,筋肉の力がゆるんで転倒してしまうこともあります.睡眠剤を使いなれた医師に少ない量から処方してもらってください.
 お薬をのまずに眠れれば一番良いのですが,飲まずに眠れないよりは,のんで安眠するほうが身体にも心にもよいと思います.
(精神科部長 田北昌史)

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