6,急に呆けたら、必ず病気が
 呆けというのは、ゆっくり始まって少しずつ進行するものと思っていませんか?実際、多くの呆けはその通りです。ところが中には、「ここ1週間くらいどうも言動がおかしい」とか、「夕べ寝る前までは普通だったのに、今朝起きてから急につじつまの合わないことを言い出した」とか、極端な例では、「昼ご飯を食べ終わるまでは何ともなかったのに、テレビを見ているうちに同じことを何度でも言うようになった」、などというようなこともあります。このように、急に起こってくる呆けの場合は、まず間違いなく何らかの重大な病気が隠れています。また、急に起こってくる呆けの場合、実際には認知症ではなく、きちんと原因を治療することによって、元どおりのしっかりしたお年寄りに戻ってくれることもしばしばあるのです。ですから、急に呆けたと思ったら一刻も早く病院を受診して、その原因を見つけてもらってください。
 ただ、正直なところ、急に呆けたように見える場合には、ありとあらゆる病気が原因として考えられます。したがって、その全てをご紹介することはできませんが、よく遭遇するのは肺炎を始めとする発熱を伴う病気です。

 Aさんは79歳の男性です。従来から物忘れは少しありましたが、来院する一週間位前から何度も同じことを言ったり聞いたりするようになりました。また、暮らし慣れた家の中でトイレの場所が分からなくなり、居間で用を足そうとしたりしました。その頃から風邪気味で、近くの病院から薬をもらってのんでいたそうです。よくよく調べてみると、Aさんは軽症ながらも立派な肺炎で、抗生物質による治療をすることで、すっかりもとの元気な状態に戻りました。ご家族も呆けたのではないかと心配しておいでになりましたが、元どおりになって一安心でした。
 Aさんの場合、熱はそれほど高くありませんでしたが、肺炎になっていなくても、高い熱が出るだけで、呆けに似た症状が出ることもあります。肺炎やそれに伴う発熱があると、食事が喉を通らなくなって脱水になりますが、脱水もこのような症状をいよいよ促進しますので、水分の摂取は非常に大切です。

 もう一つの急な呆けの非常に大事な原因として、薬を挙げなければなりません。これは本来細心の注意を払って予防しなければならないのですが、実際には比較的多いのです。身近な例では風邪薬、痒み止め(内服)、アレルギー、不整脈、排尿障害の薬(尿が出にくいとか漏れるときに使う薬)、睡眠薬などがあります。その他にも、パーキンソン病の薬や精神安定薬、胆嚢や胃腸の薬なども原因となりえます。Aさんの場合にも、肺炎や熱に加えて、風邪薬が呆けのような症状を引き起こした原因の一つであったかもしれません。ただ、強調したいのは、これらの薬が呆けのような副作用を起こす可能性があるからといって、服用するのを拒否したりしないでほしいのです。確かに呆けてしまうは困りますが、多くのお年寄りの方々は薬から絶大な恩恵を豪っているのです。さらに、呆けに似た副作用が出る可能性は副作用が何も出ない可能性よりずっとずっと低いのです。万一、呆けに似た副作用が出たとしても、薬をやめれば元どおりの元気な状態に戻ります。ですから、決して薬の副作用を恐れるあまりその素晴しい効用をみすみす利用しないというようなことがないようにしてください。このことは薬全般について言えることですが、薬の副作用を最小限にしてその効果を最大限に引き出すためにも、普段からしっかりと相談できるかかりつけの医師を持っておきましょう。

 何らかの病気や薬剤がもとで急に起こった呆け症状は、「せん妄」と呼ばれます。せん妄は急な環境変化によっても起こることがあります。せん妄とは異なりますが、脳内出血や脳梗塞、うつ病、重症の肝臓病、糖尿病、腎臓病などで脳に障害を来し、呆けのような症状が起こることもあります。いずれもきちんと治療することが絶対に必要な病気ばかりです。急に呆けたと思ったら、迷わずに病院へ直行してください。もし、かかりつけ医でなければ、普段服用している薬も忘れずに持参してください。もちろん、他所の病院からもらっている薬も含めてですよ。


まとめ
 ●急に呆けたと思ったら、病院に直行
 ●普段服用している薬も忘れずに

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「よりよい介護のための 89のヒント」メディカルレビュー社発行より引用しています