10,認知症を持つお年寄りへの接し方のイロハ
 実際に、認知症を持つお年寄りにどう接して行けば良いのでしょうか?まず基本的に、物を覚えられないことや間違いを責めるのではなく、そっと受け入れることが大切です。

 例えば、夕食後「ご飯はまだ?」と聞かれるとします。普通は「もう食べたでしょ」と返答しますが、認知症のお年寄りにはその記憶が全くないため、食べていないと強く否定するでしょう。家族はもちろん正しい接し方をしています。そして、お年寄り自身も食べた記憶がないのですから、ある意味で正論です。考えてみれば、そのやり取りはお互いにとって当然の主張なので、「食べた」「食べない」の水掛け論をしても仕方がないのです。もし「ご飯はまだ?」と聞かれ、(「もう忘れてしまったのだな」と思い)「もうすぐできるから」とか「今から作るから手伝って」などという接し方(または、話題を変えるなど)ができれば、待っている間にご飯の要求自体を忘れてくれるかもしれません。それで、要求が落ち着けば、トラブルを一つ回避したことになります。もしこのような状態がしばしばであるなら、あらかじめ夕食を少な目にして、要求があったときにもう一回食事を提供するというのも一法です。事実だからとお年寄りの意見を否定しても、お互いが感情的になるばかりで、問題の解決にはなりません。

 このような態度は、病気を理解しないとできないものであり、こんなことの連続が認知症の介護であるとも言えます。「危ないから」とか「失敗するかもしれないから」などと言って役割を奪い、できないところばかりに目を向けすぎると、自立心が奪われ、かえって多くの介護をしなければいけない状態を作ってしまいます。日常生活で起こる様々な問題に対して、上記のような対応を心がけ、「なんとなく一人でできている」という状態にもっていき、一日でも長くその状態を続けていくことが、認知症のリハビリテーションではないでしょうか。
 家族の方にもリハビリテーションは必要です。人の気持ちや感情は変動し、常に一定ではありません。晴々とした気持ちのときは、心にも余裕があり、誰に対しても優しく接することができるものですが、どんよりとした何かスッキリとしない気持ちの時には、どこか言葉も刺々しくなったり、自分でも信じられない態度をとったりしてしまいます。介護に疲れる状態(ストレス過剰)は単なる気分の善し悪しの問題ではなく、気分の悪い状態が長い間続くことで生じる、一種の病的な精神状態と言っても良いでしょう。体も心も全く同じで、疲れたら休むのが原則です。デイケアやデイサービスなどの介護サービスを利用して取り戻すことを、是非お勧めします。

 自宅にこもって介護するのは、介護者にとっても認知症のお年寄りにとってもあまり良いこととは思えません。最初はデイケアやデイサービスに出かけるのをを嫌がったり「追い出すつもりか!」などと言われるかもしれません。また、家族の方が「人付き合いが下手ですから」などと心配されることも多々あります。ところがいざ参加してみると、他のお年寄りと楽しそうに会話していることも多いようです。人付き合いが下手に見えるのは、家族の方にだけ見せる態度であって、デイケアやデイサービスという一種の社会の中では、一本筋の通った昔の社会性が蘇るのかもしれません。

 最後に、認知症のお年寄りの記憶には「(介護者にとって)忘れてはいけないことを忘れて、(介護者にとって)どうでも良いことを思い出し、悩んでしまう」という側面があるように思います。喧嘩をしたり、強く注意されるなど、嫌な出来事は記憶に残りやすいので、注意が必要です。なぜ叱られたのかという理由は覚えていなくても「あの人は嫌な人」という悪いイメージだけはしっかりと記憶に残ります。なぜ忘れるのかということにこだわり続けると、感情的なしこりだけが残り、その後の介護に悪影響を及ぼしますのでご注意下さい。


まとめ
 ● お年寄りの主張を否定しないで受け入れる
 ● 介護者の心のリハビリも同時に

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「よりよい介護のための 89のヒント」メディカルレビュー社発行より引用しています